ナイトウィザード『無名帳』


3.

翌朝の教室。
疲れ果てた顔をした基之は自分の席にへたり込みながら、昨日のことを思い出していた。
気が付いたら自宅の客間で寝ていたこと。
両親が心配そうな顔をしていたこと。
叔父が自分が"逆鱗"を自分が手にしていた経緯について聞いてきたこと。
そして、
剣がもう、戻ってこないということ。
そんなことを思い出しながら、ホームルームの点呼が始まる。
「……、野田、原口、……」
「先生ッ。原石はどうしたんです!?」
基之は剣を無視されたことに思わず席を立って叫ぶ。
周りは「何を言ってるんだコイツ」とでも言いたげな顔で基之を見つめる。
「おい、原石って誰よ?」
サッカー部で原石のチームメイトだった清川が思わず基之につっこむ。
つっこんだ市川を見つけて、基之がやり返す。
「お前、自分のチームメイトを知らないのかよ。全国大会で輝明秋葉原中等部のサンツ監督が『あれだけのストライカーがこっちにもいたらなぁ』って言わせた奴だよ。」
「ちょっと待てよ。確かに輝明秋葉原との試合はこっちが勝ったけど、あれはPK戦の末だぞ?」
「二人ともそこまでだ。」
きりのないやりとりに辟易したのか、担任が止めに入る。
「しかしな……。分かりました。」
基之は、なおも清川に食って掛かろうとしたのだが、担任の声を聞いて、不承不承席に着く。
その後の点呼は何事もなく終わり、ホームルームの時間も終わった。
昼休み。基之は昼食を食べるとすぐ、剣の携帯に電話を掛けようと携帯をポケットから取り出そうとして、携帯を昨日の騒ぎでなくしてしまったことを思い出した。
購買脇の公衆電話にコインを入れて、記憶を頼みに剣の家に電話を掛ける。
「……。はい、原石ですが」
電話にでたのは剣の母親だった。
「もしもし、智徳院ですが、原石さんのお宅ですか?」
「失礼ですが、どちら様でしょうか?」
「あの、剣くんの同級生ですけど。」
「うちには剣なんて人、いませんけれども」
「……。すいません、間違えました」
基之は電話を切り、釈然としない顔のまま、教室に戻った。
ホームルームでさんざん揉めた清川を見つけて謝った。
「……。ホームルームは悪かったな。」
「いや、それは良いけど、お前、顔色悪いままだぜ」
「そっちの方は大丈夫、だと思う」
「なら良いけど。」
清川の呼びかけにも、生返事で返す。
やがて、午後の授業が始まったが、基之は授業の内容をろくに聞いていなかった。
授業中に教諭に指されなかったことは幸いだった。





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