そのとき"女神"は確かに泣いていた


今ではないいつか、ここではないどこか。
ある王国に"女神様"と呼ばれた女の子がいました。
容姿端麗にして頭脳明晰、王国の有力貴族の家に生まれたので摂政を務める王妃様は王家直系として唯一の子である幼い王子の将来の妃殿下として婚約をさせました。
そして、王妃としての教育を施しました。
そんな二人がお互いにお目見えを果たしてほど近いある日のことです。
"女神様"が余りの教育のつらさに泣いているのを王子様が見かけました。
王子様は"女神様"を庭園の四阿に誘い、侍女にホットミルクを二杯用意してもらうように命じました。
「気分が悪かったりしたときに、これを呑むと落ち着くよ」
「ありがとうございます。ありがたく頂戴いたします」
「どう?」
「はい、落ち着きました」
「それは良かった」
その日の夜、王子様は王妃様にこのことを話しました。
「それで、"女神様"が泣いているのを見て、貴方はどう思ったの?」
「僕も、悲しかった……」
「じゃあ、彼女が落ち着いたときは?」
「僕も、落ち着いた、と思う」
「そう。ならその気持ちを忘れないようにしないとね」
「うん!」
王子様は王妃様にそう誓いました。
その後で王妃様はこう続けました。
「ホットミルクを飲んだだけではつらさや苦しさがなくならない日が来る。そんな時でもお互い支え合って生きていくのよ」
「分かりました!」
王子様は王妃様に応えました。

そして時は流れ、王子様と"女神様"は王立の貴族学院に入学し、あるときは笑い、あるときは意見がぶつかり合い、あるときは仲直りしながら歩み続け、ついに卒業になった日のパーティでのことです。
王子様は記念パーティーの席で"女神様"を満座の席で呼び付け、こう言いました。
「僕は、彼女と一生ともに歩み続けることを誓う!なるほど最初は国のため、僕たちの意志とは関係のないところで始まった約束だ。だけど、僕は王子としての義務を果たし、彼女とともに歩み続ける権利を行使する!!」
「私も彼と一生を共にすることを誓います!」
「みんな!この誓いを是とするならば拍手を持って応えて欲しい!」
会場の片隅で拍手が聞こえたかと思うと、やがてその拍手は増え、二人は拍手に包まれました。

そして、さらに月日は流れ、王子様は王として即位し、世継ぎも生まれました。
これで王国も安泰かと誰もが思いました。
その直後に発生した流行病で王太后になった王妃様が帰らぬ人になり、元々体が強くなかった王様も後を追うかのように明日をも知れぬ命になりました。
"女神様"は御殿医に許可を得て王様に話しかけました。
「ホットミルクですよ。『これを飲めば苦しいのやつらいのがなくなってすっきりします』よ」
「覚えていたんだ……」
「忘れるものですか」
「ははっ。うれしいよ。みんな君のことを完璧な"女神様"だと言うけれど、あのとき泣いていた君を見て、"女神様"なんかじゃなくて僕とともに歩める大切な人間なんだって思って、ここまで君とともに歩いてこられたんだ」
王子様は最後の力を振り絞って言いました。
「みんな、僕がこの世を去ればこの国は揺らぐ。この国が崩れぬように"女神様"と我が子の支えになってくれ」
それが王様の最後の言葉でした。
その王様の喪が明けぬ内のことです。
王様の遠縁に当たる男が隣国である帝国の力を借りて
「我こそがこの国の真の王なり!」
と唱えて反旗を翻しました。
王宮では"女神様"が家臣を集めて言いました。
「王の今際の際の言葉に背き、またあの卒業パーティでの拍手をした自分自身に背くのであれば、今からでも遅くありません。あの男に走りなさい」
「されど、王の言葉に従い、またあの卒業パーティでの拍手をした自分自身を貫く者はこの場に踏みとどまり、王子の元に戦いなさい!」
家臣達がざわめく中、
「私はここに残り、陛下の今際の際の言葉に従って王子の元に戦うことを誓います」
末席から声を上げたのは貴族学院のパーティーで拍手をし、今では若き当主となっていた男でした。
そしてその声がきっかけになって、
「私も残ります!」
「我が家も王の今際の際に従い、王子の元で戦うことを誓います」
「我が一党、ここにとどまり、逆賊を打つことを宣言します」
家臣達は皆、王子の元に戦うことを誓ったのでした。
そして一致団結した勢いのままに戦い、男とその背後にいる帝国の軍勢を退けたのです。
その後さらに時は流れ、王子は無事に育って新たな王に即位しました。
「貴方、約束は果たしましたよ」
「そのとき"女神様"は確かに泣いておられました」
"女神様"付の侍女は後にそう答えました。

(終わり)

後書き

Q:"小説家になろう"サイト内で王子様と婚約者が出てくる物語には「婚約破棄」と「ざまぁ」がなければならないか?
A:そんな訳ねーだろ!
をコンセプトとして書き進めた本作だったのだが……、
「骨と皮」
どころか
「あらすじに毛が生えた」
程度の仕上がりになってしまったなぁ……。
これを肉付けして"小説家になろう"として投稿したが良いか、それとも別な話を一から書き上げた方が良いか……。