戦えない!欠陥ロボ、ミステイカー


「設計不良というより、企画の段階で狂っているロボットに、人間を乗せてはならない」
柳田理科雄
登場人物

紅血潮(こうけつ・うしお):主人公。ミステイカーに乗り込む。
松戸博士(まつど・ひろし):ミステイカーを開発した博士。
松戸嬢(まつど・じょう):博士の娘。
いつかの未来、日本。
巨大ロボットを使って破壊の限りを尽くす謎の破壊者相手に、鬼才松戸博士(まつど・ひろし)博士は巨大ロボット"ミステイカー"を開発、紅血潮(こうけつ・うしお)をパイロットとしてスカウトし、謎の破壊者に挑んでいくのであった。

ミステイカー、起動試験。
コクピットブロックには潮がすでに直立不動の構えで待機していた。ミステイカーのコクピットブロックは人一人が十分に立って色々な動作が出来るだけの空間であり、四方の壁にはセンサーとおぼしきものが多数付いており、潮のパイロットスーツにもそれに合わせるかの様に多数のセンサーとおぼしきものが付いていた。
「準備はいいかね?」
司令室の博士が潮に尋ねた。
「OKです」
「全システム正常。ミステイカー、起動準備よし」
潮の返事に応じて、オペレーターの合図が出る。
「ミステイカー、起動します。……これは、俺の動きに合わせてコイツが動くぞ!」
「アクショントレース正常。第二段階に移行してください」
「了解。」
オペレーターの指示に従い、潮はミステイカーの目の前の壁に体当たりを仕掛けた。
「うっ。」
ミステイカーが壁に当たった瞬間、潮は自分が壁に当たったかの衝撃に襲われた。
「リアクショントレースも正常です」
オペレーターが応えた。
「リアクショントレース?」
「言ってしまえば、機体とパイロットの動きに大きな誤差が出てしまわない様に、パイロットスーツを通して、パイロットの動作を制限し、ロボットの衝撃をパイロットに伝達するのだ。」
「なるほど。それでですか」
「うむ」
博士の説明に潮が納得すると、オペレーターが促す。
「第三段階に移行してください」

そして、ミステイカーの初陣の日が来た。
だが、敵の巨大ロボットは強力で、ミステイカーはどんどん追いつめられていく。
「がぁっ!」
ミステイカーのダメージにリアクショントレースが反応し、その衝撃に耐えかねた潮がコクピットブロックの中で悲鳴を上げる。
それでも、潮は立ち上がり、それをトレースしてミステイカーも立ち上がる。
「こうなったらやむをえん、『最後の切り札』を使おう」
「!。お父様それは……」
「やってくれ、博士」
博士の娘、嬢(じょう)が異議を唱えるも、それを打ち消すかの様に潮が頼む。
「よし、分かった。『最後の切り札』発動!」
博士がそう宣言すると、突然ミステイカーのコクピットブロックから、マシンアームが飛び出し、潮を直立不動の姿勢に無理矢理固定させた。
「『最後の切り札』使用に伴い、姿勢強制固定します」
コクピットブロック内の機械音声が告げる。
そして、ミステイカーの肘から先のパーツが突然外れた。
「う、腕がぁッ!」
リアクショントレースが反応して、潮に腕をもがれた感覚が襲いかかる。
続いて、膝から下のパーツが外れ、太股の下に隠してあったロケットノズルが火を噴いた。
「あ、足までぇッ!」
同じように潮に足をもがれる様な感覚が襲いかかった。
さらに、肘のあったところに隠してあったロケットノズルも同時に火を噴いた。
その直後、ミステイカーは顔を敵の方に向けながらうつぶせの体勢のまま敵に向かって飛行し、全身が炎に包まれた。
「ああああぁぁぁぁ……」
全身が燃える様な激痛に襲われながら、薄れゆく意識の中で潮が最後に見たものは、だんだんと大きくなって見える敵の姿であった。

「パイロットが発見されたときには、すでに脳死状態でした」
「おそらく、リアクショントレースの衝撃に神経が耐えきれなかったのでしょう……」
「潮くん……」
「なんと言うことだ」

霊安室で、医師と博士と嬢が力無く立ちつくしたまま、潮の遺体を見下ろしていた。
やがて、嬢が耐えきれなくなったのか博士の胸に顔を埋めてすすり泣き始めた。
博士は霊安室の天井を見上げながらつぶやく様に言った。
「潮君の犠牲は大きい。それでも我々は戦い続けていかなければならないんだよ……」
(完)

後書き
巻頭句は"空想科学読本"から。元ネタは"空想非科学大全"の法則4(人間型ロボット)から。
(色々と都合良く解釈しているところもある、と言うかもはや原形をとどめていないが)