夏休み自由研究「アルラウネの観察日記」
常奏(どこかの)市立杏展(きょうてん)小学校 田中衛
七月三十一日(火曜日)
おじいちゃんに「夏休みの自由研究、何か良いアイディアない?」と聞いたら、
「早咲きの花の観察はどうかな?」と言ったので、
おじいちゃんと僕とで、町内のお花屋さんに行ってきました。
おじいちゃんとお花屋さんが話し合っていて、しばらくしたらお花屋さんが、
「田中さんと話したんだけども、それだったら良いのがあったよ」
と言って、超軟式パワーアシストスーツを着て両腕で抱えた大きな植木鉢を持ってきました。
「"アルラウネ"って言ってね、とっても変わったお花が咲くんだよ。その分、寿命も短いけどね……」
おじいちゃんと僕とで"アルラウネ"の鉢を持って帰って、家の中に置きました。
八月一日(木曜日)
"アルラウネ"の事について書かれたメモを読みました。
一日一度、お水と栄養剤をしっかりと与えることを始め、色々なことが書いてありました。
そう言えば、きょう"アルラウネ"にまだお水と栄養剤をやっていなかったな、と言う事を思い出して、お水と栄養剤をメモの通りにやりました。
八月二日(金曜日)
"アルラウネ"の鉢から、芽がでてきました。
八月三日(土曜日)
アルラウネの芽から出てきた葉っぱが鉢の地面にありました。
八月四日(日曜日)
きのうよりもたくさん葉っぱが生えて、鉢の地面を覆ってました。
八月五日(月曜日)
アルラウネの鉢の真ん中に今までとは違った葉っぱが出てきました。
八月六日(火曜日)
きのう出てきた葉っぱの真ん中から、何か白いものが出てきました。
八月七日(水曜日)
きのう出た何か白いものがどんどん膨らんで、まるで花のつぼみのようです。
後で調べてみたら、おととい出てきた葉っぱは「花のがく」と言うものでした。
八月八日(木曜日)
花のつぼみがどんどん大きくなって、鉢も合わせると僕と同じくらいの大きさになりました。
八月九日(金曜日)
花が開いて、その中には、頭からおへそまでの綺麗なお姉さんがいました。
「わぁ」
と僕は思わず驚いて、おじいちゃんにこのことを話すと、おじいちゃんは、
「これがアルラウネの花なんだよ」
と教えてくれました。
僕は恐る恐る
「こんにちは。アルラウネさん」
と挨拶すると、
アルラウネさんは僕に微笑み返してくれました。
八月十三日(火曜日)
夏休みの登校日。
学校から帰ると、アルラウネさんがぐったりしていました。
僕が朝、水と栄養剤をやっていなかったことを思い出すと、慌てて、水と栄養剤をアルラウネさんに与えました。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
と、謝ることしか出来なかった僕を、アルラウネさんは抱きしめてくれました。
八月十九日(月曜日)
アルラウネさんはどんどん年をとって、すっかりおばさんになってました。
八月二十六日(月曜日)
アルラウネさんはすっかりおばあさんになっていました。
眠ってばかりのアルラウネさんに僕が声を掛けるか掛けないかで迷っていたら、アルラウネさんがそれに気がついたのか、目を覚まして、僕に微笑みかけてくれました。
八月三十一日(土曜日)
いつも眠っているアルラウネさんから息をしている音が聞こえなくなりました。
慌てておじいちゃんを呼びに行くと、おじいちゃんはアルラウネさんの花に手を当てて言いました。
「アルラウネは枯れてしまったよ」
僕は
「アルラウネさん、アルラウネさん」
と言いながら涙が止まりませんでした。
九月一日(日曜日)
今日、枯れてしまったアルラウネさんを「土に還る"バイオコート紙"」に包んでおじいちゃんと一緒に裏庭に埋めました。
「そしてアルラウネは土に還って、改めてまた芽を出して、花を咲かせて、枯れて、土に還っていくんだよ」
おじいちゃんはアルラウネさんを埋めた後でそう言いました。
僕は、いつかまたアルラウネさんに会えると良いなぁ、と思ったのと、またアルラウネさんが枯れてしまうのかあ、と思って、ぐじゃぐじゃになって、また涙が止まりませんでした。
担任から田中君のおじいさんへ。
花が枯れても忌引きにはなりません。
それと……、
お花屋さんに、私にも"アルラウネ"を分けていただけるようにお願い出来ませんか?
(終わり)
後書き
この話、
"夏休みの自由研究『婚約破棄観察日記』"を読んで衝動的に、
「じゃあ、自分でも"日記もの"を作ろう」
と思って意気込んでいたら、
題材が
「それを起爆剤にして、なんでこんな話になった?」
になるわ、
令和五年の九月までには全然形にならなくて塩漬けになるわ、
今年(令和六年)になっても、八月いっぱい(正確には九月一日が日曜日なので九月一日まで)には完成せずに
「勝手に『忌引きによる欠席扱い』にして、学校を休んで夏休みの自由研究の提出が遅れた」
事をでっち上げるわ、
それでも
「〆切り合わせ(破っておいて〆切り合わせも何もあった物ではないが)のやっつけ仕事で一発書き」
になるわと言った、
「何でだ?」
としか言い様のない作品になってしまったなぁ。
(前も似たようなことを後書きで言ってなかったか?)